Photo:Eri Ito
世界選手権ロードレースMoto2ファンティック・レーシング・リノ=ソネゴチームマネージャー、ロベルト・ロカテリの単独インタビューをイタリアGP(2025年6月22日、ムジェロ)からお届けします。インタビュアーはgp-journal.comの伊藤英里さんです。
Q:今シーズンのFanticレーシングはこれまでよりも良いシーズンを送っているように見えます。ここまでをどう振り返りますか?
A:今シーズン、私にとって大きな違いは、もう一人のライダーの存在ですね。アロン・カネットはMoto3やMoto2で多くの経験を積んでいて、速い。勝つことは簡単じゃないし、勝とうとすること自体も簡単ではありません。でも彼のキャリアや経験を見れば、ハイレベルな位置を目指して一緒に取り組めるんです。
我々はただのレーシングチームではなく、“Fanticファミリーチーム”なんです。ライダーたちは、そのファミリーの一員になる、という感じです。バリー・バルタスは、私にとってポテンシャルのある選手です。ただ、速く走れる状態やタイミングがまだ整っていない。昨年、バリー・バルタスは開幕戦で速くて、人生初の表彰台にも上がり、とてもいい結果を出しました。でも、その後は表彰台に近づくのが難しくなってしまった。昨年のカタール(開幕戦)では良いスタートを切ったけど、そのあとが続かなかったんです。
今日のインタビューを前に、昨年のレース結果を見返してみたのですが、トップ5には近づけていなかった。トップ10に入るのも難しいという状況でした。
今シーズンのムジェロの2〜3日前に、昨年のレースを見返したら、やっぱり違っているんです。今年の方がいい状態にあると思うし、この“ファミリーチーム”の中でうまくやれていると思います。チーム全体がライダーといい関係を築きながら仕事をしたいと思っているけれど、それって簡単なことではないですからね。Fanticのスタイルというものがあるんです。
私にとっては、前にいたチェレスティーノ・ヴィエッティもそうですが、当然のように勝てるとか、当たり前に全レースで優勝できるというのは、そんなに簡単なことではありません。今のアロン・カネットとバリー・バルタスにも同じことが言えます。簡単じゃないけど、こういうスタイルで仕事を進めていく。それがFanticのやり方です。だから今年は満足していますよ。チームの中に、同じくらい速いライダーが2人もいるんですからね。
Q:アロン・カネットについてお聞きしたいのですが、昨年と比べて明らかにパフォーマンスがいいですよね。彼は今シーズン、チャンピオンを獲らなければならない立場だと思うのですが。
A:私としては「絶対に勝たなければならない」とは思いません。ただ、彼には全ての可能性、全ての要素が揃っています。Moto2クラスでは、ほとんどの選手が同じバイクを使い、同じタイヤを使っています。今年は違うサスペンションを使っているチームもいますが、それが決定的な差とは言えません。
カネットはここ3戦、シャシーに関して調整をしていて、旧型のシャシーに戻したいと考えていました。以前の“バイク”に戻すという意味ではなくね。以前のシャシーは少し違うんです。今年はフロントホイールが変わって、スーパーバイクと同じサイズです。
カネットは速いですが、旧型シャシーと新型ホイール&タイヤの組み合わせでは限界があります。3戦ほど勝つためのトライを続けてきましたが、この旧型バイクと新ホイールの組み合わせでは進化が止まってしまったんです。
そしてムジェロでは、ランキング上位にいるゴンザレスが使用しているのと同じバイクに戻しました。チーム内の仲間であるバリー・バルタスも使っているバイクです。これは2025年型の新型マシンで、開発を進めるためのバイクです。旧型はアラゴンGPの後にやめることにしました。
(昨シーズン)シルバーストン以降、彼(カネット)はかなり多くのポイントを獲得しました。そして私は、今年もう一度、彼とともにチャンピオン争いに挑戦したいと思っています。
アロン自身も、「何かを変えてみよう」と考えて試してみました。そしてその後、彼は新しいバイクで進み続けるという判断を、チームというファミリーの中で下したんです。
これはとてもシンプルな話です。家族と同じなんです。例えば、子どもが学校へ行くときには、親は手助けしますよね? 親として一緒に学校に行き、子どもがより良くなるようにサポートする。ライダーも同じです。私たちはライダーを助けて前に進ませるんです。
Q:ライディングスタイルにおいて、アロン・カネットの強みとは何だと思いますか?
A:私が見るに、アロン・カネットはレース序盤にポジションを上げるために、かなり激しく他のライダーと戦うことになります。例えばカタールでは、前半で激しいバトルを乗り越えたあとに勝ちました。
レースの後半になると、全員が同じタイヤ、同じ車体、ウォーマーを使っているので、性能に差が出なくなるんです。違いが出るのはレースの序盤です。グリッドの1列目か2列目からスタートできれば、良い展開になる。でも後ろからスタートすると、前に出るためにタイヤを使いすぎてしまう。そのせいでタイヤのライフに影響が出て、後半に苦しくなりますね。
Q:アロン・カネットとバリー・バルタスは人としてどんな性格でしょう?
A:カネットのことは、もう長く一緒にやってきているので、よく知っています。彼は勝ちたいと思っていて、常に取り組みを続け、とにかくトライし続けます。そして、スロットルを閉じるということをしません。
でも、本当に大事なのは“バイクそのもの”ではなく、“バイクの下”、つまり彼を支えるチーム、ファミリー、仲間たちです。“仲間”といっても、ただ助けるだけの存在ではなく、これはあなたの仕事、これは私の仕事と、それぞれの役割が明確です。ライダーとチーム、両方が半分ずつ責任を持って、同じ目標に向かって取り組んでいるんです。
こうした“バイクの下”の部分が一番難しいんです。なぜなら、速く走るためには準備が必要だからです。考える時間があったり、「イエスかノーか?」と迷いがあるとき、これが難しいポイントになります。
私としては、この点においてはバリー・バルタスの方が優れていると考えています。彼はまだ若いですが、しっかりしています。このポイントにおいて、彼はとても真剣に取り組んできました。疑問に対して考えて答えを出そうとするとき、わたしのアドバイスはそこにありません。
彼は年齢的にはまだ若いけれど、すでに成長した若いライダー、成長した若者としての準備ができているんです。もちろん、マシンの上での速さもありますしね。
Q:今年、なぜバリー・バルタスを選んだのか教えてください。
A:Fanticレーシングのボスであるステファノ・ベドンは、バリー・バルタスをチームに入れたいと思っていました。その上で私に、「(バルタスを)ライダーとしてのスポーツ的な視点でどう評価するか?」と意見を求めてきたんです。私には元WGPライダーとしての経験があるし、パドックで過ごした経験もありますから。
でも重要なのは、仕事がコース上だけにあるわけではないということです。さきほどもお話ししましたが、“本当に大変なのはバイクの下”、つまりパドックであり、このスポーツ、このスポーツで生きていく環境なんです。
私にとって、昨年の開幕戦で彼が表彰台に上がったことは大きな意味がありました。彼にはポテンシャルがあります。スピードもあるし、それを継続し、安定した結果を出せる力もある。ですから、若くてプロフェッショナルで、真剣に取り組むライダーに賭けてみるのがいいだろうと思いました。
バルタスは、私が望むようなタイプのライダーです。私は長く待ちたくない。Fanticとして、彼とは今の体制のまま2026年まで契約を結びたいと考えています。
Q:今シーズン、アロンとバリーの両選手はとても好調だと思います。お二人の体制についてお聞きしたいのですが、使用しているバイクやチーム内でのサポート体制、技術的な環境は全く同じなのでしょうか?
A:2人の待遇は全く同じです。毎晩、ミーティングのあと、食事の前に私はバリー・バルタスにこう伝えるようにしています。彼はチームに来たばかりで、まだ若いですからね。
『明日のレースでは、君もアロン・カネットも、戦いのルールを逸脱するようなことはしないこと』とね。『でも、最終ラップでは、何が起きてもおかしくない』と。
私は、レース中ずっとルールを超えるような激しい争いはしてほしくありません。でも最終ラップなら、勝負は別です。バルタスでもアロン・カネットでも、チャンスがあるなら戦うでしょう。
Q:チームオーダーはないんですね?
A:ないですよ!
Q:Fanticレーシングにはエースライダーはいない。どちらも平等に扱っているということですね?
A:そうです。1年、2年いるからといって、自動的にナンバーワンになるわけではありません。
私にとって大切なのは、結果・リスペクト・そしてプロ意識です。もし速くても、この3つの要素を持っていなければ、私はその選手をナンバーワンとは認めません。むしろチームから離れてもらいます。
私たちのチームは家族のような存在、スポーツ・ファミリーなんです。だから私は“速さ”の前にまず、“人としての尊重”と“プロとしての考え方”を重視しています。
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