Photo:Eri Ito
ファンティックのヒーローであり、世界選手権ロードレースMoto2を戦うアロン=カネット選手。刺青が印象的ですがそのライディングスタイルにファンも多いカネットに、ファンティックにとっての母国GPとなるイタリアGP(2025年6月22日、ムジェロ)直前、単独インタビューを行いました。日本のファンのためだけにカネットが答えてくれた今のMoto2、ぜひご覧ください。インタビュアーはgp-journal.comの伊藤英里さんです。
Q:今シーズンはこれまでの年に比べてとても安定した成績を残しているように見えます。その最大の理由を教えてください。
A:一番の理由は、メンタル面を改善したことだと思います。昨年のシーズン終盤にその部分を改善して、今もそれを維持できています。今は集中して取り組んでいます。他のライダーたちも去年に比べてレベルアップしているので、僕たちも少し上を目指して取り組む必要があります。でも、チームとしては本当にいい仕事ができていると思います。
Q:2024年のタイGPの記者会見でも、メンタリティを変えたとおっしゃっていましたね。以前と比べて、どのように変えたのか教えてください。
A:引き寄せの法則(the law of attraction)は、自分が考えていることが将来現実になるという法則です。僕が変えたのはまさにそれなんです。去年、大きな一歩を踏み出し、今年のプレシーズンでもさらに進化しました。今の僕は、頭の中で思い描いていること、夢見ていることを現実にしようとしています。僕は世界チャンピオンになると分かっている。なぜなら、今の僕の頭の中では、すでに世界チャンピオンだからです。でも、それを他の人にも見せなければいけない。それが引き寄せの法則の大事なポイントです。自分を信じて、それが実現すると信じること。頭の中でそうなっていれば、現実もそうなるんです。
それに加えて、僕がやったもう一つのことは、もっと安定して、自分自身と自分のレベルにもっと自信を持つようになったことです。これは全ライダーにとってとても大事なことだと思います。これまでのシーズンでは、メンタル面の問題がとても大きかった。例えば「自分は強くない」「速く走れない」といったネガティブな思考ですね。そうしたことを改善してきましたが、ただ、さらにいいメンタルの状態を目指して、もっと学び続ける必要があるとも思っています。
Q:Moto2で2024年まで5年間戦ってきた中で、なぜメンタリティを変えようと思ったのですか?
A:まだ一度も世界チャンピオンになれていないからです。今では、もうそれを成し遂げたと言えます。
Q:今シーズン、あなたはとても安定した成績を残していますが、勝利数に関してはマヌエル・ゴンザレス選手のほうが多いです。それについてどう思いますか?
A:去年のMotoGPチャンピオンは誰でしたか?
マルティンは3勝、バニャイアは11勝したのに、ランキング2位でしたよね。チャンピオンはマルティンでした。
それが大事なんです。10年後に誰が2位だったとか、11勝したかなんて誰も覚えていません。大事なのは、コンスタントであること、集中することで、僕たちはいい仕事をしていると思います。去年、僕は小椋(藍)よりも多く勝ちましたが、タイトルを取ったのは小椋です。だから(優勝数については)気にしません。
Q:あなたにとって、タイトルを取るうえで最も重要なのは勝つことだけではなく、安定性だということですね?
A:その通りです。それが重要なことなのです。去年のチャンピオンは、シーズンにおける最速のライダーじゃなかった。シーズンで最も安定したライダー、小椋がタイトルを取ったんです。だから、そこをはっきり理解して、改善していく必要がある。僕たちはいい仕事をしているし、全てのレースで完走している。このままの方向性で続けていきたいです。
ただ、今は安定性だけでなく、もう少し速さも必要です。僕たちには実力も、才能も、素晴らしいチームもある。だから、そこに到達すれば、ライバルたちに勝てると信じています。
Q:レース中にあなたが最も重視していることは何ですか?
A:“フロー”(flow)ですね。ライディングで一番大切なのは、走りの流れです。
フローがなければ速く走れないからです。フローがあれば、自然と速く走れるし、他のことは気にならなくなります。僕にとって一番大事なのは、ライディングスタイルにおけるフローです。
Q:レース前、集中するためにどうやって準備しますか?
A:特に何もしません。むしろ、レースとは全く関係のない話をしています。なぜなら、まだ起きていないことに対して集中しても仕方がないからです。起きていないことに対して不安になっても意味がない。未来はやってくるし、そのときに対応すればいいんです。それまでは、リラックスして、落ち着いているべきです。
Q:今シーズンでMoto2は6年目ですよね。でもまだタイトルを獲れていません。自分に何が足りないと思いますか?
A:もう(タイトルを)獲ったと思っています。ごめんなさい、でも僕の頭の中ではすでに獲っています。あなたが何を言っても、他の人が何を言っても関係ありません。それを最終戦、バレンシアでシーズンの最後に証明してみせます。でも、それまでは、冷静に、状況に気をつけながら、チームとしっかり意思疎通をして、レースで勝って、完走することが大事です。そして何が起こるか、どう起こるかを追っていきましょう。でも僕の中では、すでにそれは起こっているんです。
さっき説明したように、それが「引き寄せの法則」なんです。
Q:Fanticレーシングとはどんなチームですか?
A:僕にとってFanticレーシングは素晴らしいチームです。たくさんのサポートをくれるし、過去も今も、プロフェッショナルな体制で支えてくれています。僕は、(このチームで)子どもから大人へと成長しました。僕のキャリアだけでなく、人生にとっても大きな意味を持つ存在です。Fanticはこれからもずっと、僕の心の中にあるチームです。
Q:チームマネージャーのロベルト・ロカテリさんからアドバイスはありますか?
A:毎レース、プライベートでもレースのことでもアドバイスをくれます。彼は単なるボス(上司)じゃありません。僕にとっては父親のようであり、兄のような存在です。血のつながった家族のような、素晴らしい人です。15年後に僕が引退しても、彼とはきっと関係が続いていると思います。
Q:Fanticの市販バイクに乗ったことはありますか?
A:はい。「キャバレロ」「イモラ」「ステルス」に乗りました。あと、スーパーモトも。イタリアの最高のブランドですよ。
Q:なぜゼッケン44を使っているのですか?
A:僕の父が2005年にカートでスペインチャンピオンになったんです。その後、僕に小さなカートを与えてくれたんですが、僕は好きになれなくて、「バイクのほうがいい」と言ったんです。そのあと、ゼッケン44を使い始め、ずっと使っています。
Q:あなたの将来の最大の目標は?
A:世界チャンピオンになることです。
それだけです。もし「世界チャンピオンになった後に死ぬ」と言われても、僕は今すぐサインします。それが夢であり、僕が望んでいる全てです。だからこそ、今、それに向けて努力しているんです。